FXや株取引をしていると、「金利が上昇して株価が下落した」とか「アメリカの金利上昇でドル高が進んだ」とか金利の変動が相場に影響することはよく経験します。
金利といっても実質金利や名目金利、10年債利回りなど様々な言葉があり、その違いが分かりにくいですよね。わたしも投資を始めたばかりの頃は何のことだが分かりませんでした。
そこで、国債の利回りと実質金利についてまとめました。
実質金利とは
実質金利とは物価上昇率を考慮した金利のことです。
米国の経済学者アービング・フィッシャーが提唱した理論によると、名目金利、実質金利、期待インフレ率(物価上昇率)の間には、以下の関係式が成り立ちます。
実質金利 = 名目金利 - 期待インフレ率
なかでも経済記事で割とよく目にするのは、「10年債の金利」と、「今後10年間のブレーク・イーブン・インフレ率(10年物BEI)」で計算した実質金利です。BEIは、つぎの項目で説明します。
実質金利 = 10年債利回り-10年物BEI
期待インフレ率とは
期待インフレ率は、市場が予測するインフレ率(物価上昇率)です。
記事によってはBEI(Break Even Inflation rate)、ブレーク・イーブン・インフレ率などとも書かれています。期待インフレ率との違いがわかりにくいですね。
実は、BEIは期待インフレ率を推測する方法一つです。期待インフレ率の推定方法にはいくつかあります。代表的なものは以下の3つです。
- 家計や企業に対するアンケート調査から予測
- ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)で予測
- 過去のインフレ率の実績から予測
アンケート調査
日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」、内閣府の「消費動向調査」などです。数値で回答する部分が5の倍数になりやすいなど、一定のバイアスがかかる欠点があります。
ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)
BEIは固定利付国債と物価連動国債の利回り格差から求めます。
固定利付国債は、発行時の元本が償還時まで変わらない国債です。物価連動国債は物価動向に合わせて元本が変わる国債です。
ここでは余談ですが、物価連動国債はインフレに強い代わりに元本保証がないのが基本です(元本保証を付ける国もあります)。
債券の利回りは、債券の市場価格から計算できます。したがって債券市場に参加している投資家の考え(予想・期待)がよく反映される指標だと言えます。一般的には10年債で計算します。
インフレ率の実績
インフレ率の実績はコアCPIを指標にします。CPIは消費者物価指数のことです。簡単に言うと、商品の小売価格の変動を表す指数です。調査対象となる商品は国によって異なります。
CPIのうち、すべての対象商品から計算するのが「総合指数」です。しかし総合指数の対象商品には生鮮食品が含まれます。生鮮食品は天候に左右されて変動が大きいため、インフレ率の判断には適していません。そこで生鮮食品を除いた対象商品から計算するのがコアCPIです。
振り返ってみると、FXでスキャルピングをやっていた時「コアCPI」の数値で、FX相場が良く動いていました。なるほど、納得です。
「そんなことも知らずにFX取引したの!?」「アホなの?バカなの?」って突っ込みは勘弁してください。
実質金利が低いと、、
名目金利が一定ならば期待インフレ率が高まると実質金利が下がります。それによって次のような効果があると期待されています。
実質金利が下がり、借金しやすい環境になります。
すると、企業が設備投資しやすくなります。一般人もマイホームやマイカーのローンが組みやすくなります。ドクターも開業資金を調達しやすくなります。結果的に経済活動が活性化され、景気が刺激されます。
投資家は利回りを追求して株式に資金を回します、よって株価も上昇します。
2021年初の実質金利は?
いよいよお待ちかね、アメリカと日本の実質金利を計算してみましょう。
アメリカの実質金利
アメリカの実質金利を実際に計算してみましょう。使用するデータは2021年2月12日のものです。
期待インフレ率(10年) | 2.21(%/年) |
10年債回利回り | 1.208 (%/年) |
(2021年2月12日時点) |
実質金利= 名目金利-期待インフレ率
= 1.208-2.21
= -1.002 (%/年)
思いっきりマイナス金利ですね。
日本の実質金利
日本の実質金利も計算してみましょう。使用するデータは2021年1月21日のものです。
期待インフレ率(10年) | 0.105 (%/年) |
10年債回利回り | 0.036 (%/年) |
(2021年1月21日時点) |
実質金利= 名目金利-期待インフレ率
= 0.036-0.105
= -0.069 (%/年)
こちらもマイナス金利ですが、アメリカよりかなりましです。こうした金利環境がしばらく続いたことで、2020年に円高が進んだという分析をされている方もいます。「ドルで持っているより円で持っているほうがまし。」というわけです。
また、利回りを追求して株式投資に資金が向かうのも理解できますね。株価が上昇する理由の一部は実質金利の低下と言えるでしょう。
その後の実質金利
その後の実質金利の推移も見てみましょう。
アメリカ | 期待インフレ率(10年) | 10年債利回り | 実質金利 |
2021.2.12 | 2.21(%/年) | 1.208(%/年) | -1.002 |
2021.6.1 | 2.46 | 1.606 | -0.854 |
2021.11.1 | 2.5 | 1.551 | -0.949 |
日本 | 期待インフレ率(10年) | 10年債利回り | 実質金利 |
2021.2.12 | 0.105(%/年) | 0.036(%/年) | -0.069 |
2021.5.31 | 0.257 | 0.080 | -0.177 |
2021.10.29 | 0.065 | 0.095 | 0.03 |
相変わらず日本のほうが実質金利は高いですが、2021年5-6月の日米の金利差は縮小傾向です。円安ドル高が進んだ理由の一部は実質金利の推移で説明できそうです。
しかし2021年10月~11月になって実質金利の金利差が再び拡大しています。おもに日本の期待インフレ率の低迷が原因と思われます。
今後も推移に注視したいと思います。
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