先生、ベトナムの基本的な情報は分かりました。
ベトナムへの投資は結局アリですか、ナシですか?
それでは、前回の基本情報から、
ベトナムの将来性やリスクを整理しましょう。
概要
わたしの独断と偏見による分析によると、ベトナムのメリットは以下の5つです。①高い経済成長率、②人件費が安く器用・勤勉な国民、③急速に進む工業化、④政治的安定性、⑤各地域へのアクセスが良好なこと。
同様に、ベトナムのデメリットは以下の5つです。 ①人口ボーナス期の終わりが近い、②電力不足、③主要河川の水源を他国に抑えられている、④海上輸送は南シナ海に依存、⑤紛争が多いRimlandに位置する。
ベトナムは、投資先としては十分に魅力的な国だと考えます。しかし実際投資する前に ベトナム株をあつかったETF、ベトナム国債などのパフォーマンスを検討する必要があります。
投資対象としてのベトナムのメリット
ベトナムは東南アジア諸国で一番勢いがある国と言っても過言ではありません。
ベトナムどうしてそんなに成長しているんでしょうか?
いくつかの要因があります。
順に見てみましょう。
基本情報編で紹介したベトナムの特徴をもとに、投資対象としてのベトナムのメリット・将来性を考えてみます。ベトナムのメリットには以下のようなものがあります。
- ASEANで最高レベルの経済成長率
- 人件費が安く器用・勤勉な国民
- 急速に進む工業化
- 政治的安定性
- 各地域へのアクセスが良好
ASEANで最高レベルの経済成長率
ベトナムはASEANでトップレベルの経済成長率を誇っています。
へー!
しかも2050年頃まで高い経済成長率を維持すると予想されています。
なるほど!
まだまだ伸びしろがある訳ですね
ベトナム経済は、1990年代及び2000年代は高成長をなし遂げ、2010年に(低位)中所得国となりました。2015年~2019年の平均のGDP成長率は7.7%とASEAN諸国でも最高レベルにあります(#1 サクッとわかるビジネス教養 東南アジア )。
2020年はベトナムも新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の流行による悪影響を受けました。それでも、ベトナムはASEAN主要国の中で唯一実質GDPで2プラス成長(+2.9%)を達成しています。
こうした高レベルの経済成長は今後も続くと予想されています。たとえばプライスウォーターハウスクーパースはベトナムは2050年まで5.1%/年以上の経済成長を続け、世界で20番目の経済規模になると予測しています( #5 )
人件費が安く器用・勤勉な国民
ベトナムの人件費はまだまだ安いと実感しています。
どうしてですか?
ベトナム人技能実習生が近くの工場に働きに来ているんです。
1995年以来、実質賃金が減り続けて世界に取り残されつつある日本に来るんです。
給料の安い日本のなかで、とくに給料の安い技能実習生ですよ。
つまり技能実習生で日本にやって来るのは、
ベトナム国内の給料がもっと安いから、
ということですね。
ベトナムの名目GDPは3300億ドル(2019年)で、一人当たりGDPでは2700ドル程度の下位中所得国にあたります。ASEAN諸国の中でも、まだまだ人件費が安いほうです。日本にやってくる技能実習生(という名目の安価な労働力)の過半数(53.5%)がベトナムから来ていることからも明らかです。
またベトナムの識字率は90%以上あり高いレベルにあります。優秀な人材を安い人件費で確保しやすいと言えます。
しかもベトナム人の国民性として手先が器用、勤勉といった特長があります。製造業での経済発展に有利な国民性と言えるでしょう。
政治的安定性
ベトナムの強みは政治的安定性です。
共産党一党独裁だからですか?
それよりもベトナム独自の集団指導体制がプラスに働いています。
ベトナムは社会主義体制をとっており、共産党一党独裁の政治体制を維持しています。ベトナムは共産党書記長、国家主席(大統領)、首相、国会議長の4首脳による集団指導体制によって安定した政権運営が保たれています。権力が一人に集中していないため、トップが代わると国の方針まで変わるということがありません(#3)。
国としての方針が一貫しているため、30年以上ドイモイ政策を維持することで経済成長が達成された、といっても過言ではないでしょう。
急速に進む工業化
ベトナムには、世界の主要企業の生産拠点が中国から移転してきています。
チャイナ・プラスワンですね!
それだけじゃあ無いですよ。
ベトナムはもともと農業が盛んな国でしたが、近年は世界の工場としての役割を増しつつあります。特に近年は中国からの生産拠点の移転が進んでいます。
主な要因は、チャイナリスクを回避するための欧米や日本の企業の移転です。しかし中国企業も米国による対中関税の抜け道としてベトナムへの生産拠点移転を進めています。結果的に世界の主要企業の工場が続々とベトナムに拠点を構える状況になっています。
結果的に、かなりの勢いでベトナムの工業化は進んでいます。そして工業における主要産業は、縫製や簡単な組み立て加工でしたが、近年はエレクトロニクス分野の成長も目立っています。
各地域へのアクセスが良好
製造業では、原料の輸入や製品の輸出のために海上輸送網が欠かせません。その点、ベトナムは中国、インドといった巨大市場に近接しており、北米や欧州への海上輸送にも便利な地域にあります。製造業で利益を上げやすい立地にあると言ってよいでしょう。
投資対象としてのベトナムのデメリット
基本情報編で紹介したベトナムの特徴をもとに、投資対象としてのベトナムのデメリットを考えてみます。ベトナムのデメリットには以下のようなものがあります。
- 人口ボーナス期の終わりが近い
- 電力不足
- 主要河川の水源を他国に抑えられている
- 海上輸送は南シナ海に依存
- 紛争が多いRimlandに位置する
人口ボーナス期の終わりが近い
ベトナムの人口増加は終わりが近づいています。
高齢化が始まるんですね?
2040年頃からですけどね。
ベトナムの人口は約9650万人でなおも増加傾向ですが、2040年ごろに人口ボーナス期が終わり、高齢化を迎えていきます。5年・10年ならともかく20年以上の長期的な投資を行う場合にはこの点に十分に注意が必要です。
とくに高齢化にともなう年金制度改革などに失敗した場合には、急激に社会が不安定化する可能性もあります。
電力不足
ベトナムは電力を輸入しています。
電力不足は、工業化が進むほど深刻になるでしょう。
そういえば、インドネシアのメリットに「停電が少ない」ってありましたね。
急激な工業化にともない、ベトナムの電力需要は高まっています。結果的に国内では電力需要を賄えず、現在はラオスから電力を輸入しています。
今後も経済成長をつづけるためには、安定した電力供給が欠かせません。ベトナム政府も発電所の増強を図っています。しかし原子力発電所の計画は経済性から頓挫しています。すると火力発電の重要度が高まりますが、脱炭素化が求められる現在では無制限に増やすことができません。こうした電力不足はベトナムを今後を悩ませることでしょう。
ベトナム政府は水力発電にも注力していますが、水力発電にも大きな懸念材料があります。それが主要河川の水源が他国にあるという問題です。
主要河川の水源を他国に抑えられている
ベトナムの抱える問題として、主要河川の水源が国外にあることがあります。
水がそんなに大切なんですか?
水は地域や国家を左右する重要な資源です。
日本にも水合戦とか水争いという言葉がありますよ。
ベトナム政府は電力供給の安定化や地域経済活性化のために、ホン川やメコン川流域のダム建設を進めています。しかしダム建設を進めているのはベトナムだけではありません。現在は特にメコン川は中国が上流にダム建設を進めており水量が減少してしてしまっています。
しかもメコン川の水量減少によって、ベトナム国内での農業や淡水漁業にも悪影響がでています。とくに稲作は大量の水を必要とします。そして米はベトナムの重要な輸出品でもあります。
水資源の不足は、ベトナムの農業、漁業、電力供給に決定的な悪影響があります。電力供給が不安定だと工業や商業にも当然影響がでます。つまり重要河川の水源を他国に抑えられているということは、他国に決定的な影響力を行使されるリスクがあるということです。
海上輸送は南シナ海に依存
ベトナムが工業で成長するためには、海上交通の安定が重要です。
そしてベトナムから外洋にでるには必ず南シナ海を通る必要があります。
南シナ海って領有権問題がありますよね?
それが問題です。
ベトナムが工業国として経済活動を続けるには、原料の輸入や製品の輸出のための海上交通網の活用が欠かせません。そしてベトナムの場合は南シナ海を通る必要があります。しかし南シナ海は周辺各国が主権を主張して争っています。もし南シナ海を封鎖するような国が出現した場合、ベトナム経済は大打撃を受けるでしょう。このような事態は簡単には生じないと思います。しかしもし南シナ海が安全に利用できなくなった場合、ベトナムが受ける影響は他の東南アジア諸国以上に甚大でしょう。
もちろんベトナムもある程度の対策は取っています。それがASEANが整備するインドシナ半島の東西回廊や南部回廊です。しかし東西回廊や南部回廊による陸上輸送だけで、海上輸送をすべて代替することも困難だとおもわれます。
なぜなら同じ量の荷物をトラック輸送するのと船で輸送するのではコストが全く異なるからです。たとえば貨物船としては小型である国内貨物船でも1隻でトラック160台分の荷物を運べます。貨物船は6人で運航できますが、トラックには160人の運転手が必要です(#6)。人件費だけでもまったく違います。
紛争が多いRimlandに位置する
ベトナムは地政学的なリスクの高い地域にあります。
地政学的なリスク?
地政学はこのブログのテーマではないので端折りますが、
陸の大国と海の大国が衝突する場所になりやすいんです。
地政学的には、紛争の絶えないリムランド(Rimland)にあるため、どうしても戦場になりやすい地域です(#7)。20世紀以降でも第二次世界大戦、インドシナ戦争、ベトナム戦争、中越戦争などの舞台になっています。
もちろんリムランドでなければ安全とは限りません。例えば米中が対立している今日では、米中の中間に位置する日本はベトナムよりも危うい可能性があります。とはいえ地政学的な特徴は、投資を判断する際の材料の一つとして知っておいて損はないでしょう。
わたしの考え
わたしにとって、ベトナムは投資の対象として十分に魅力的な国です。ただし人口動態を考えると2030年以降の投資については、慎重に判断する必要があると思います。いずれにせよ実際に投資できるかは、また別の問題です。
ベトナムをあつかったETFなどのパフォーマンスを確認する必要があります。ベトナム株式の代表的なETFであるVNMや、ベトナム国債への投資について実際に検討してみたいと思います。
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この記事は投資の結果を保証するものではありません。投資はあくまで自己責任でお願いします。
#1 サクッとわかるビジネス教養 東南アジア(監修 助川成也、新星出版社)
#2 外国人技能実習機構「2019年度技能実習機構業務統計」
#3 ベトナム「政治システム」の特徴|共産党一党独裁ながら安定した集団指導体制を確立
#4 ベトナム社会主義共和国 基礎データ (外務省 令和令和3年4月16日)
#5 Market Overview, Vietnam – Country Commercial Guide, International Trade Administration
#6 クルマ・鉄道・飛行機・船 どれに乗る? 何で運ぶ? (板津直快、広井洋一郎、鎌田健一郎、佐藤健 日本経済新聞社)
#7 サクッとわかるビジネス教養 地政学(監修 奥山真司、新星出版社)
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