独断と偏見による新興国投資。マレーシア② メリット・デメリット分析編

資産運用
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きくたん
きくたん

マレーシアの状況はおおよそわかりました。

それで先生はマレーシアに投資するんですか?

迷走ドクター
迷走ドクター

ではまず、前回解説したマレーシアの基本情報をもとに、

将来性やリスクについて整理してみましょう。

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概要

わたしの独断と偏見による分析によると、マレーシアのメリットは以下の5つです。つまり①高い経済成長率、②人口ボーナス期がまだまだ続くこと、③人材のレベルが高いこと、④各地域へのアクセスが良好なこと、⑤インフラが整っていること、です。

同様に、マレーシアのデメリットは以下の4つです。①中所得国の罠、②民族対立、③ 南シナ海情勢に影響を受けやすいこと、④そもそもの人口が少ないこと、です

マレーシアは、人件費の上昇に伴って、低コストの工業製品の輸出で成長する段階の終わりを迎えています。高付加価値商品の製造、イノベーション、知的財産などに経済成長の軸をシフト中です。しかしこの試みが上手くいくとは限りません。個人的には、ベトナムのように人件費の安さを武器にして成長中の国のほうが今後を予測しやすいと考えています。

いずれにせよ、株式や国債の投資についてはもう少し掘り下げたいと思います。

迷走ドクター
迷走ドクター

概要だけで満足の方は、

次の記事(マレーシア③株式編)をごらんください。

きくたん
きくたん

前の記事をまだ読んでない方は

ぜひ、マレーシア① 基本情報編をどうぞ

投資対象としてのマレーシアのメリット

基本情報編で紹介したマレーシアの特徴をもとに、投資対象としてのマレーシアへの投資のメリット・将来性を考えてみます。マレーシアのメリットには以下のようなものがあります。

  • 高い経済成長率
  • 人口ボーナス期がまだまだ続く
  • 人材のレベルが高い
  • 各地域へのアクセスが良好
  • インフラが整っている

高い経済成長率

迷走ドクター
迷走ドクター

コロナ禍前のマレーシアは、
5%/年以上の経済成長を続けていました。

きくたん
きくたん

コロナ禍の影響はどうなんですか?

迷走ドクター
迷走ドクター

かなりの悪影響を受けています。

マレーシア経済は、初代首相マハティールによるルック・イースト政策の成果で高度経済成長を実現しました。21世紀に入ってからも高い経済成長率を維持しており、 2015-2019年の平均で5.2%/年の経済成長率を維持しています(#1)。

マレーシアの経済成長は今後も続くと予想されています。プライスウォーターハウスクーパースはマレーシアのGDPランクは2050年に3つ上昇して24位になると予想しています(#2)。

とはいえ、2020年・2021年は新型コロナウィルス(SRAS-CoV-2)感染症の流行によって経済的に大きなダメージを受けています。具体的には、2020年のGDPは名目で7%以上、実質で5.6%の減少となっています。

マレーシアの名目GDPの推移
出典:世界経済のネタ帳

人口ボーナス期がまだまだ続く

迷走ドクター
迷走ドクター

マレーシアの人口ボーナス期は2050年まで続く見込みです。

きくたん
きくたん

まだまだ成長が期待できますね。

投資を考える際の重要な要素の一つは人口ボーナスです。その点、マレーシアの人口ボーナス期は2050年まで続くと予想されています。人口ボーナス期の終了時期はミャンマー(2053年まで)、フィリピン(2062年まで)よりは早いものの、インドネシア(2044年まで)、ベトナム(2041年まで)、タイ(2031年まで)よりは後になります(#3)。

国名人口ボーナス期
終了年
シンガポール2028
タイ2031
ベトナム2041
インドネシア2044
マレーシア2050
ミャンマー2053
フィリピン2062
出典:世界:人口ボーナス期で見る有望市場は(#3)

人材のレベルが高い

迷走ドクター
迷走ドクター

マレーシアの人材レベルは高いです。

また、気質的には製造業に向いています。

きくたん
きくたん

どういう気質ですか?

迷走ドクター
迷走ドクター

「決められたことを、きっちり行う」という気質です。

マレーシアの教育水準は高く、一般的にタイやインドネシアより人材のレベルは優秀だとされています 。とくに大卒レベルの人材では中国系に優れた人材が多いそうです。これはブミプトラ政策の関係で、大変な努力をして国内大学に進学するか、外国の大学に進学する必要があることが関係しています(#4)。

また中国との比較でも、「勝手に創意工夫を加えてしまう」中国人に対し、マレーシア人は「決められた工程をまもり、きっちりと作業をこなす」という特徴があります。そのためマレーシア人は、品質管理が重要な部品製造の分野に向いています (#4)。

各地域へのアクセスが良好

迷走ドクター
迷走ドクター

東南アジア全般に言えることですが、世界の主要地域とのアクセスが良好です。

きくたん
きくたん

東南アジアならどこでも同じですか?

迷走ドクター
迷走ドクター

シンガポールに依存しない国際港湾を整備しつつある点で、マレーシアは特に有利です。

インドネシアやベトナムの分析でも述べてきましたが、東南アジア諸国は一般的に世界の諸地域とのアクセスが良好です。中国やインドと言った巨大市場に近く、北米やヨーロッパへの海上輸送に適した立地です。最後のフロンティアであるアフリカへのアクセスも悪くありません。製造業で利益をあげるには有利な立地と言えます。

特にマレーシアは世界有数のチョークポイントであるマラッカ海峡に面しています。国際港湾の整備により、シンガポールから物流の中心としての地位を奪い取る可能性すらあります。

国土地理院地図を一部改変

インフラが整っている

迷走ドクター
迷走ドクター

マレーシアは各種インフラが整っています。

なかでもタンジュンペラパス港には注目です。

きくたん
きくたん

そんなにすごいんですか?

迷走ドクター
迷走ドクター

供用開始から僅か20年で、コンテナ取扱量が急増しています。
タンジュンペラパス港を拠点とする海運会社も出ています。

マレーシアは、東南アジア諸国の中でもとくに各種インフラの整備が進んでいる国です。特に道路交通網の整備が進んでいます。さらに電力供給も安定しており、滅多に停電は起きないレベルに達しています。こうしたインフラの充実は、外国からの投資を呼び込みやすい下地となっています。

それに加えて、港湾の整備が進んでいるため世界各地からコンテナ船が集積するようになっています。代表的な港湾は首都クアラルンプールの近郊のクラン港と、シンガポールの対岸にあるらタンジュンペラパス港です。とくにタンジュンペラパス港の成長はすさまじく、2000年の供用開始か20年も経たない間に、世界第18位のコンテナ取扱量を誇るまでになっています。

シンガポールに依存せずに他国と貿易できる大規模な港湾設備を保有すれば、輸入・輸出コストが低下するメリットがあります。これはマレーシアにとって国際競争力の強化につながります。実際に、世界有数の海運会社が、拠点としてタンジュンペラパス港を選ぶケースも出てきています

投資対象としてのマレーシアのデメリット

基本情報編で紹介したマレーシアの特徴をもとに、投資対象としてのマレーシアのデメリットを考えてみます。マレーシアのデメリットには以下のようなものがあります。

  • 中所得国の罠
  • 民族対立
  • 南シナ海情勢に影響を受けやすい
  • そもそもの人口が少ない

中所得国の罠

迷走ドクター
迷走ドクター

マレーシアで注意すべきは、「中所得国の罠」です

きくたん
きくたん

どういうことです?

迷走ドクター
迷走ドクター

人件費が上昇して、工業製品輸出での成長が鈍化することです。
成長戦略の切り替えが必要な時期です。

新興国は、低賃金の労働力等を背景として経済成長を遂げることができます。しかし経済成長とともに人件費が上昇すると工業品の輸出競争力を失い、経済成長が鈍化します。これを「中所得国の罠」と言います。

マレーシアの一人当たりのGDPは11200ドルであり上位中所得国に該当します。タイやインドネシアと比べても人件費が高くなりがちです。そのため、低コストでの工業製品の輸出で成長を維持することは難しくなっています。

マレーシアは、その対策としてIT人材の育成や、IT技術の研究開発に注力するようになっています。

民族対立

迷走ドクター
迷走ドクター

マレーシア国内の民族対立は重要な懸念材料です。

きくたん
きくたん

どういう民族対立ですか?

迷走ドクター
迷走ドクター

基本的にはマレー系(イスラム教徒)と中国系の対立です。

マレーシアの数的な多数派はマレー系で約65%を占めます。次に中国系(華僑)が約25%を占めています。マレー系と中国系の対立は、独立後から長く続いた問題です。宗教の違い、経済格差などもあるため解決は簡単ではありません。

さらに、近年ではマレーシアに移住する中国人が激増しており(#5)、新たな問題となっています。民族対立が激化する可能性もあります。

「在外中国人の保護を名目に人民解放軍がマレーシアに進駐する」ようなことは、まさか無いとおもいますが・・・今後の情勢に注意は必要です。

南シナ海情勢に影響を受けやすい

迷走ドクター
迷走ドクター

マレーシアは南シナ海の地政学的リスクと無縁ではいられません。

マレーシアは、南シナ海に面した国です。つまり南シナ海の領有権問題の当事者でもあります。そのため南シナ海情勢と無関係ではいられません。さらに言えば、南シナ海の地政学的リスクが非常に高まった場合、マラッカ海峡を通過する商船が激減します。代替航路へシフトするからです。

南シナ海有事の代替航路
出典:国土地理院地図を一部改変

すると東南アジアの国際ハブ港湾がインドネシアに移るでしょう。折角シンガポールに追いつこうと整備したタンジュンペラパス港も無駄になります。

インドネシアの港湾を経由して貿易することになると、輸送コストが上昇する分だけ価格競争力が低下してしまいます。マレーシアにとって不愉快な状況になるのは間違いありません。(それでも、海上輸送がほとんど不可能になるベトナムよりはずっとマシですが・・・)

きくたん
きくたん

南シナ海有事では、インドネシアが得をする可能性があるんですね。

迷走ドクター
迷走ドクター

南シナ海有事は日本にとって悪夢ですけどね。

もっとも、代替航路へのシフトは日本にとっても重大な輸送コスト増加になります。南シナ海の地政学的リスク増大は、日本にとっても大ダメージです。他人ごとではありません。

そもそも人口が少ない

迷走ドクター
迷走ドクター

マレーシア自体は、人口が多くないことにも注意が必要です。

きくたん
きくたん

やはり人口は重要な要素なんですね?

迷走ドクター
迷走ドクター

経済規模は、人口が多いほど大きくなりやすいです。

人材面でも、すそ野が広がります。優秀な人材が出現する確率も上がります。

マレーシアに投資する上での問題点の最後に挙げるのは、人口の少なさです。人口が少ない以上いくら経済成長しても、その成長の絶対値を大きくすることは困難です。実際、東南アジアで2050年までに最も経済成長が見込まれる国はベトナムだったりします(#2)。

人口が少なくても経済力を高めるとなると、高付加価値商品の生産、技術革新知的財産金融といった方面を強化する必要があります。端的に言うとシンガポールのような形を目指すわけです。マレーシアもそのための人材育成や研究開発に注力するようになっていますが、成果が出るには時間がかかるでしょう。

わたしの考え

きくたん
きくたん

マレーシアのことをどう思っているんですか?

迷走ドクター
迷走ドクター

マレーシアは、重要な転換期にあります。

産業構造の変革が上手くいけば、
先進国と肩を並べる可能性もあります。

きくたん
きくたん

上手くいきますか?

迷走ドクター
迷走ドクター

変革のカギとなる優秀な人材は、欧米、中国、インドなどと争奪戦です。
結果を予測することは難しいです。

マレーシアは新興国の中では、先進国に近い位置にある国です。他の新興国とくらべても政治的にも安定しています。一方で、今後も急激な経済成長が見込めるかは不透明です。よく言えば成長力と安定性のバランスが良いのですが、悪く言えば成長力も安定性も中途半端になります。

わたし個人としては、マレーシアは将来性のある国だと思います。とはいえ、国の産業構造の変革期にある国のため、今後が予測しづらい印象です。変革が上手くいけば良いですが、失敗すると成長が止まってしまいます。

マレーシアが重点を置きつつある、高付加価値商品、イノベーション、知的財産といった領域では、優秀な人材の争奪戦になります。相手は、欧米、中国、インドなどです。マレーシアが成果を上げると断言することは難しいです。

その点、「(比較的単純な)工業製品の輸出による経済成長」という分かり易い成長要素があるベトナムのほうが投資先としては魅力的に映ります(少なくとも短期的には・・・)。また、 高付加価値商品の生産、技術革新、知的財産、金融といった方面に期待するなら、米国など先進国企業への投資で良い気がします。

いずれにせよ、マレーシアをあつかったETFなどのパフォーマンスを確認したいと思います。。ベトナム株式の代表的なETFであるEWMや、マレーシア国債への投資について実際に検討してみたいと思います。

この記事は投資の結果を保証するものではありません。投資はあくまで自己責任でお願いします。

迷走ドクター
迷走ドクター

最後までお疲れさまでした。

次の記事(マレーシア③株式編)をどうぞご覧ください。

きくたん
きくたん

前の記事をまだ読んでない方は

ぜひ、マレーシア① 基本情報編をどうぞ

#1  サクッとわかるビジネス教養 東南アジア(監修 助川成也、新星出版社)
#2 長期的な経済展望:世界の経済秩序は2050年までにどう変化するのか?(PwC Japan グループ 2017年5月)
#3  世界:人口ボーナス期で見る有望市場は(椎野幸平、ジェトロセンサー、2015年3月号)
#4 マレーシア投資環境の優位性と留意点(マレーシアの投資環境、2014年2月、国際協力銀行)
#5 このままでは中国に乗っ取られる…マレーシア元首相が中国人の大量移住に激怒するワケ(PRESIDENT Online 2021/09/07 10:00)

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