概要
2022年になりドル円相場は20年来の円安水準となっています。これまでは、「円安は日本経済に有利」として株価が上昇することが多かったのです。しかしが、2022年の株価の株価の反応はいま一つです。
その理由としては、
- 生産拠点の海外移転などで円安メリットが薄れたこと。
- 日本株への関心の低下
- それに伴う個人資金の海外流出
などもあるようです。日本の個人資金の規模は非常に大きいため、その動向には注意が必要です。
今後円安はどの程度進むのでしょうか、また円安メリットが復活することはあるのでしょうか?
50年来の円安水準
2022年になりドル円レートは急激な円安が進行してます。およそ20年ぶりの水準です。
それどころか、実質実効レートでみると50年ぶりの低水準(#1)だそうです。
円安だが株価の反応は鈍い
一般的な経済学の教科書では、「円安は日本経済にプラスの影響をもたらす」と説明されています。日本経済にプラスなら株価が上昇しそうです。ではドル円と日経225の推移を比較してみましょう。
円安でも株価はイマイチ反応していません。
円安のメリットデメリット
そもそも、「円安は日本経済にプラス」と言われるのは、どうしてでしょうか?
円安のメリット
円安のメリットは以下の通りです(#3)
- 価格競争力改善による財・サービス輸出の拡大
- 円建て輸出額増加を通じた企業収益の改善
- 円建て所得収支の増大
円安のデメリット
一方、円安のデメリットは以下の通りです(#3)
- 輸入コスト上昇による国内企業収益および消費者の購買力低下
メリットが上回るなら日本経済にプラス
円安が日本経済にプラスかどうかは、メリットがデメリットを上回るかどうかにかかっています。円安メリットが円安のデメリットを上回れば日本経済にプラスという訳です。
では、日本の株価はどうして反応しないのでしょうか?
円安メリットが希薄化している
これまでは、円安のメリットがデメリットを上回るため、円安は日本経済にプラスとされてきたのです。しかし、近年では円安のメリットは縮小しています。
つまり円安メリットを享受できない企業が増えています。例えば自動車メーカーでは生産拠点とサプライチェーンの海外シフトが進んでいます。(#4)
日本のエレクトロニクス産業も同様です。PS5はソニーグループの業績をけん引する家庭用ゲーム機です。しかしPS5生産のおおくは台湾の鴻海精密工業などの電子機器受託生産サービスに依存しているのです。そして、その手数料はドル建てであり円安メリットはありません。(#5)
そのため、多くの業種では円安のデメリットの方が大きいという試算もあるのです。(#2)
円安はもっと進む?
現在でもドル円レートは、実行実質レートで見れば約50年ぶりという低水準になっています。しかしさらに円安が進む可能性はあります。
米国金利上昇による円安
米国の金利は、6月、7月でも0.5%ずつの上昇が予測されています。そのため日米の金利差はさらに拡大する可能性が高いです。
もし、米金利が3.5%まで上昇するようなことがあれば、ドル円相場は1ドル=135円台に乗せるとうい予測もあります。(#1)さらには1ドル=138円を予測する専門家もいます(#7)。
とはいえ、FRBの利上げ効果により米国のインフレが落ち着いて、2022年のうちに円が反転するとの予想が主流です(#7)。
<補足> 2022年6月の米国FOMCでは0.75%という大幅な金利引き上げが決定されました。予想以上に高レベルのインフレに対応するためです。
日本の預貯金1000兆円の動きに注目
そんな中で、日米の金利差以上に気になるものがあります。それが日本に1000兆円あると言われる家計の預貯金です。
「家計が保有する1000兆円の預金の1%でも外貨建て資産にシフトしたら大幅な円安になる」といわれてきました。(#1)
たとえ1%でも10兆円ですから、海外に流出すればかなりの円売り圧力になります。円安を食い止めるためには、為替介入があるかもしれません。ちなみに円買い介入の元手となる外貨準備は日本に160兆円あるそうです。
しかし、「1000兆円の家計の預金が動き出すとき160兆円の外貨準備は小さく見える。」(#1)との意見もあります。たしかに1%の流出が毎年続けば160兆円など消し飛んでしまいます。
そして個人資金の海外流出はすでに始まっているようなのです。
個人資金は8兆円が海外へ流出
最近は、日本でも海外株への投資が流行しています。かくいう私も米国株に投資しています。「日本の成長がイメージができない。」「少子高齢化・人口減でむしろ衰退するのでは?」と考えてしまうからです。
ようするに「日本株への関心がうすれている。(#6)」のです。
2022年6月6日の日経新聞によると、日本の個人投資家が国内の投信を経由して海外株に投資している総額は、2021年に8兆3000億円に膨らんでいます。日本株への投資(280億円)の300倍近い規模になります。(#6)
この8兆3000億円は、あくまでも「日本の投信」を経由した額です。直接に外国の株式・投信・上場投信に投資しているケースも含めれば、個人資金の海外への流出はもっと多い筈です。もう10兆円を超えていてもおかしくありません。
日本では、「家計が保有する1000兆円の預金の1%でも外貨建て資産にシフトしたら大幅な円安になる」と言われています。つまり「10兆円の流出で大幅な円安になる。」と言うことです。現在が歴史的な円安水準なのも当然かもしれません。
そして、日本の投資家が見放すような日本株を、海外の投資家が見放しても不思議ではありません。「円安メリットが縮小し、国内外の投資家に見放された日本株が低迷するのは当然のこと。」なのではないでしょうか。
今後も、個人資金が日本国外に流出を続けるなら、「円安」と「日本株の伸び悩み」が続くでしょう。そして、「日本株の伸び悩み」が更なる個人資金の国外流出を生むでしょう。個人資金の動向には注意が必要です。
円安メリットが復活する時
そして、日本にとって円安メリットが大きくなるのは、「(世界との比較で)日本人の給与水準がもっと低くなって、工場が国内回帰した時」かもしれません。
それは、日本が「途上国並み」か「途上国以下」に衰退したことを意味します。決して楽しい未来予測ではないですね。
この記事は、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資はあくまでも自己責任でお願いします。
<参考文献>
#1 佐々木 融 日本円は50年ぶり「低水準」 (週刊ダイヤモンド 2022/5/21 p28-29)
#2 酒井才介 円安「損失」が日本の多数派 (週刊ダイヤモンド 2022/05/21 P30-31)
#3 唐鎌大輔 日本経済に「プラス」は本当か (週刊ダイヤモンド 2022/05/21 P32-33)
#4 トヨタに迫る「値上げ危機」 (週刊ダイヤモンド 2022/5/21 P16-18)
#5 電機の円安メリットは“消滅“ (週刊ダイヤモンド 2022/5/21 P19-21)
#6 大西康平、五味梨緒奈 (日経新聞 2022/6/6 個人資金 海外株に8兆円 )
#7 プロ7人がドル円を総予測 (東洋経済 2022/05/21 P75-77)
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