世界のマネーが、米国債に集中しているようです。「米国外から米国債への資金流入は2022年に過去最大の規模(3)」となりました。
具体的には、「米国外勢による22年の米中長期国債の買越額は世界全体で7500億ドル(約100兆円)(3)」にもなり、12年ぶりに過去最大を更新しています。日本のマネーも米国債に流入しています。「国内勢は海外の中長期債を1月に1兆円超買い越し(3)」だそうです。
「10年物国債利回りは21年末の1.5%から22年末の3.8%まで上昇(3)」しており、投資妙味がましているからです。
しかし、米国債に投資するのであれば、リスクも把握する必要があります。たとえば以下のようなリスクを考慮することが必要です(2023年3月3日時点)。
- 債務不履行(デフォルト)
- 金利上昇
- 為替リスク
- 日銀の政策見直し
債務不履行(デフォルト)リスク
外国債権のリスクと言えば債務不履行と為替リスクです。そして、「米国市場で債務不履行(デフォルト)への警戒が高まって」います。(1)
「 政府の債務残高が上限に達し、国債の償還や利払いが滞りかねないとの懸念が出ている。」からです。
デフォルトを回避するためには、『議会』で債務上限の引き上げが承認される必要があります。しかしアメリカ議会の承認を得るには、以下の2つの障害があります。
- ねじれ議会
- フリーダム・コーカス
ねじれ議会
米国のバイデン政権は民主党政権です。しかし、2022年の中間選挙で下院は共和党が多数派となりました。このように政権を担う与党と議会の多数派が異なる状況を「ねじれ議会」といいます。
そして「『ねじれ議会』では政治的な対立がより深まり、上限引き上げの議論が進まない可能性(1)」があるのです。
民主党と共和党がどのように妥協点を見出すかが注目されます。しかし共和党にとっても、党内の意見をまとめることは簡単ではありません。理由は、次に述べます。
フリーダム・コーカス
フリーダム・コーカスは、共和党内部の保守強硬派のことです。近年は特に共和党内での影響力が高まっています。そのため共和党内で「民主党との妥協がしにくい(1)」状況が生じているのです。
注目は2023年8月償還の国債
日経新聞によると、「特に投資家が神経質になっているのは8月に償還される国債(1)」です。「米ゴールドマン・サックスは『米財務省の資金は8月までに底をつく可能性が高い』と予想(1)」しているからです。
ですから、少なくとも2023年8月償還の米国債に手を出すのは危険だとわたしは考えています。
金利上昇(価格下落)リスク
通常、債権の金利が上昇すれば、債券の価格は下落します。そのため今後の金利動向は非常に気になるところです。そして、足元では、米国の金利には上昇圧力がかかっています。
米国の「1月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比6.4%上昇し市場の予想を上回った(2)」こと、「失業率は3.4%と53年ぶりの低さ(2)」だったことなどが主な要因です。
これにより、フェデラルファンド(FF)金利先物市場の予想する金利には変化が見られました。「1月末時点ではFF金利の最終的な到達点は4.9%程度(2)」だったのが、「足元では5.3%程度まで上昇(2)」したのです。
つまり、2023年3月上旬時点でいえば、まだ数カ月は金利上昇(債券価格は下落)する可能性が高いと考えられます。債券価格が下落すれば、含み損を抱えることになります。
ただし、満期まで米国債を保有する前提なら、中途の債券価格は気にする必要はないでしょう。
為替リスク
ドル建ての債券を購入するなら、為替リスクを考慮することも必要です。現金化した際に円高ドル安となっていれば為替差損が生じます。そして米国の政策金利の低下は、ドル安の圧力となります。そして米国の政策金利は2023年後半には低下する可能性が予想されています。
でも、わたしは、ドル建てで運用しつづけるつもりなので、為替リスクは気にしないことにします。
日銀の政策見直しリスク
現在、米国債に資金が集中しているのは、「満期保有を前提とした投資家のマネーが利回り水準が切りあがった米国債に流入(3)」しているからです。
具体的な利回りで言うと、「10年物国債利回りは21年末の1.5%から22年末の3.8%まで上昇(3)」しています。これは十分に魅力的な利回りに感じます。
しかし、米国と他国との金利差が縮まるようなことがあれば、米国債から流出するマネーも出てくることが予想されます。
そこで注目したいのが日本の金利です。日本は依然として低金利政策を維持しています。しかし物価上昇に対応するため、遠からず日銀が利上げをせざるを得ないという予測もあります。
日銀が利上げを実行すれば、米国との金利差が縮まることで、米国債から流出する資金があるかもしれません。日銀が「仮にマイナス金利をゼロに戻したり、それ以上に上げたりすれば、世界の債券市場や米国株に逆風となる。(4)」ということです。
この記事は、特定の投資行動を推奨するものではありません。あくまでも投資は自己責任で行ってください。
<参考文献>
#1 米国債、信用リスク警戒 (南泰葉、佐伯遼、高見浩輔、 日経新聞 2023年2月8日朝刊)
#2 世界の金利の上昇圧力 (日経新聞 2023年2月23日朝刊)
#3 米国債に世界マネー集中 (日経新聞 2023年2月22日朝刊)
#4 米株、業績悪化織り込まず(マイケル・ウィルソン, 宮本岳則 日経新聞 2023年2月25日朝刊)
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