アマゾンが調剤業界に算入!
いよいよアマゾン・ドット・コムが処方薬のネット販売に参入するようです。これによって調剤薬局の業界には大きな変化が起きるかもしれません。
サービスの概要
日経新聞によるとネット調剤の流れは次のようになります。
- オンライン診療や医療機関での対面診療
- 電子処方箋を発行
- アマゾンのサイト上で薬局に申し込む
- 薬局は電子処方箋をもとに薬を調剤
- オンラインで服薬指導
- アマゾンの配送網を使って薬局から薬を集荷
- 患者宅や宅配ロッカーに届ける
* #1 アマゾン、処方薬ネット販売 (日経新聞 朝刊 2022/9/6)より抜粋
サービス開始は2023年1月以降
アマゾンは「2023年に本格的なサービス開始をめざし」(#1)ています。これは「電子処方箋」の運用が前提となっているためです。
ちなみに、電子処方箋の医療機関や薬局での運用は2023年1月からの予定です。
当面は中小薬局にプラットフォームを提供
日経新聞によると「当面はアマゾンが薬局を運営して直接販売するわけではなく、在庫などは持たないもよう」(#1)です。
そのかわり、アマゾンは「国内の中小の薬局を中心に参画をよびかけ」(#1)てシステムを提供し、参加する薬局は「システム利用料を支払う」(#1)しくみとみられています
「アマゾンは複数の大手チェーンに声をかけていた」(#2)らしいのですが「大手各社はアマゾンの要請に応じていない」(#2)ようです。
将来的には直接運営も!?
個人的には、いずれアマゾンが直接に薬局運営に算入するのではないかと思います。そして、その時はオンラインの診療所も開設すると予想しています。
個人的には、わたしとオンライン診療は相容れないと思います。聴診・打診・触診のない診察は考えられないからです。
しかし身体診察が必要でない科であればオンライン診療と相性は良いでしょう。 たとえば精神科などはオンライン診療と相性が良いかもしれません。
(精神科の先生、間違っていたら申し訳ありません)
大手薬局の株の行方には不安
アマゾンの処方薬販売への参入で、大手薬局株には逆風になると思っています。
既に調剤薬局は飽和状態
2022年現在、日本国内の調剤薬局は「コンビニエンスストアを上回る6万店」(#2)にもなります。すでに飽和状態となっており、薬局の倒産件数も増えています。
大手薬局チェーンはスケールメリットを活かしたコストダウンで勢力を拡大する一方、中小薬局は苦しい状況にありました。
つまりこれまでは、大手薬局が優位にあった訳です。寡占が進みつつあったとも言えます。
大手薬局に脅威
これまで中小薬局を攻め立てる立場だった大手薬局にとって、アマゾンの参入は脅威となります。「アマゾンが自前の会員基盤や物流インフラを活用すれば‥(中略)‥太刀打ちできない。」(#2)からです。
わたしなら、今後当面はドラッグストア株には手を出さないでしょう。売りから入るという選択肢はありますが、わたしは現物株しかやらないので‥‥
アマゾンの強み
アマゾンの強みについて、わたしなりに考えてみました。
配送料の価格競争力が強い
従来の薬局では配送料がバカになりません。「即日配送で300円程度かかるケースもある」(#1)からです
それに対して、圧倒的な規模を誇るアマゾンなら配送業者と大口契約が可能です。それによって配送コストを大幅に下げられると予想されます。
配送コストでは、従来の大手薬局チェーンを圧倒できるのではないでしょうか。
効率的な処方箋処理
従来の薬局には、「薬剤師の一人当たりの業務量の制限」が大きな足かせです。詳しく説明します。
処方箋の応需枚数に上限がある
薬剤師には1日で応需(処理)できる処方箋に枚数制限があります。具体的には1日40枚(*)です。
店頭で毎日ちょうど40枚の処方箋を受け付けることは非現実的です。つまり、実店舗では、ある程度の無駄がどうしても生じる訳です。
(*実際には稼働日数で平均して40枚/日であれば良い。)
複数の薬剤師に効率よく処方箋を割り当て
アマゾンなら、処方箋の応需枚数に余裕のある薬剤師に処方箋を割り当てることが可能になります。つまり応需枚数の制限ギリギリまで薬剤師に処方箋を処理させることが出来ます。
当面はプラットフォーム提供のみ
アマゾンは当面はプラットフォーム提供を行うようです。
在庫リスクを抱えることはありませんし、調剤ミスの責任を問われることもありません。それらのリスクはすべて薬局が負うことになります。
もちろん、調剤が儲けになると分かれば「調剤」に直接参入する可能性は極めて高いでしょう。
マーケットプレースで人気が出た商品を、アマゾン本体が販売するようになる例から考えて、ほぼ確実だと思います。
そして調剤が儲かるのは、近年の大手薬局チェーンの様子を見れば明らかだと思われます。調剤収入を元手にスーパーやコンビニに価格競争を仕掛けていますよね?
中小薬局にも待つのは地獄のみ?
先ほどは、アマゾンは大手薬局チェーンに脅威と述べました。しかしアマゾンのシステムに参画する薬局にも地獄しか待っていないように思います。つまり
- 大手の反撃にあいアマゾンに見捨てられる
- 大手を圧倒したのちアマゾンにすべてを奪われる
のどちらかの未来しか無いように思います。
アマゾン調剤の不安要素
盤石に思えるアマゾン調剤にも不安要素はあります。何かというと「オンライン資格確認」の遅れです。
オンライン資格確認の導入が遅れがち
先に述べたように、アマゾン調剤は「電子処方箋」が大前提となっています。電子処方箋の運用は2023年1月からの予定です。しかし電子処方箋の運用には重要な条件があります。
それが「オンライン資格確認」です。
電子処方箋を運用するには、医療機関や薬局が「マイナンバーカードを保険証として使うための『オンライン資格確認』と呼ぶシステムなどを準備しておく必要」(#3)があるのです。
そして私の知っている範囲内では、「オンライン資格確認」の導入は必ずしも進んでいません。
オンライン資格確認の導入が遅れる理由
日本には数多くの開業医がいて、たくさんの診療所を経営しています。なかには「オンライン資格確認」の導入に積極的でない診療所もあるのです。
その理由としては、以下のようなものがあります
- マイナンバーカードが十分に普及していない
- 「オンライン資格確認」システムの維持費についての不安
マイナンバーカードが普及していない
マイナンバーカードの普及率を確認しましょう。2022年7月時点の全国平均の普及率は45.9%となっています。普及率としてはまだまだ不十分です。
結果的に、「従来の保険証による資格確認」と「マイナンバーカードによる資格確認」が診療所の受付で入り乱れることが予想されます。それによる受付の混乱を嫌う開業医の先生も少なくないと思われます。
「オンライン資格確認」システムの維持費についての不安
「オンライン資格確認」システム導入についてはある程度の補助金もあり、さほど問題になりません(*2)。しかしシステムのメンテナンスや更新については補助金は出ないでしょう。釣った魚にやるエサはないのです。
今どきの医療機関は、エコーやレントゲンなどの医療機器、電子カルテ、レセコンの維持・更新で経営を圧迫されがちです。
価格設定は「ボッタクリ」というドクターも多く、多くの開業医にとっては悩みの種です。新しいシステムを導入するとなれば、そのメンテナンス・更新費用を心配するのは当然です。
*2 導入自体も経済的負担が大きいという意見もあります。
オンライン資格確認は既定路線(多分)
とはいえ、オンライン資格確認は国の既定路線だと思います。
新しいシステムの導入で儲かる業者がいる=利権が存在している=後には引けない。という図式が出来上がっていると感じるからです。
ならば、「電子処方箋も既定路線、ネット調剤も既定路線、いずれ普及する。」と考えてよいのではないでしょうか。
オンライン資格確認にむけて、マイナ保険証も実質的に義務化されます。
個人的な危惧
最後に、余談もいい所ですが、個人的にアマゾン調剤について危惧していることをご紹介します。それはアマゾンが調剤に直接参入した場合のことです。
疑義照会が乱発される懸念
薬剤師には「疑義照会」という重要な仕事があります。処方箋を発行した医師に対して、必要に応じて処方箋の内容について確認するのです。
疑義照会は、医療の安全のためには極めて重要な作業です。そのため、調剤報酬に算定することが出来ます。つまり薬局の利益にもなります。
アマゾンが調剤に直接参入した場合、次のようになります
疑義照会が多ければ多いほどアマゾンが儲かる。
そのため、アマゾンがAIなどを駆使して「少しでも疑義のある処方箋」を全て拾い上げ、大量の処方箋について全自動で疑義照会してくるのではないかと危惧しています。
例えば、
すべての薬の薬剤情報には「高齢者」「妊娠の可能性のある婦人」「小児」などへの使用については注意を促す文章が織り込まれています。
これらを根拠に、あらゆる処方箋について用量や用法が適正が医師に確認することもありえる訳です。
アマゾンから電話が何度もかかってきて、
「内容に問題ない場合は”1”を、薬剤師に連絡したい場合は”2”を押してください」
という自動音声を毎回聞かされてはたまりません。病棟の業務などに支障が出てしまいます。
この記事は、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資はあくまでも自己責任でお願いします。
<参考文献>
#1 アマゾン、処方薬ネット販売 (日経新聞 朝刊 2022/9/6)
#2 薬局6万店 店頭販売に転機 (日経新聞 朝刊 2022/9/6)
#3 電子処方箋 薬局、システム導入が必要 (日経新聞 朝刊 2022/9/6)
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