(2022年1月17日)
フィリピンのことは大体わかりました。
フィリピンの良い点、注意すべき点をまとめてください。
それでは、前回解説した情報をもとに、
フィリピンの将来性やリスクをまとめ直しましょう。
概要
フィリピンへの投資を考える際のフィリピンの良い点、注意すべき点をまとめてみます。
フィリピンの良い点には①高い経済成長率、②人口そのものが多い、③人口ボーナス期が長く続く、④英語が得意、⑤世界各地と良好なアクセス、などがあります。
フィリピンの 注意すべき点 としては①電力不足、②人材流出、③おおらかすぎる国民性、④国内の政情不安、⑤南シナ海情勢、などがあります。
電力不足については、フィリピンが原子力発電所を導入するかに注目です。国内政治に関しては2022年の大統領選挙に注目せざるを得ません。
南シナ海の地政学的リスクは、フィリピンの地位を高める一面もあります。なぜなら、南シナ海有事では、①代替航路がフィリピンを通る、②(ベトナムから)フィリピンへ生産拠点が移動する、といったことが予想されるからです。
東南アジア諸国に投資するなら、①あらかじめフィリピンにも分散投資しておく、②国際情勢次第で(ベトナムから)フィリピンなどへの資金を移動させる、などの対応が必要でしょう。
概要だけで満足された方はお疲れさまでした。
次の記事(フィリピン③ 株式編:準備中)にご期待ください。
興味のある方は本文もどうぞ。
他の国も取り上げていますので興味のある方はどうぞ。
インドネシア 基本情報編
ベトナム 基本情報編
マレーシア 基本情報編
投資対象としてのフィリピンのメリット
基本情報編で紹介したフィリピンの特徴をもとに、投資対象としてのフィリピンへの投資のメリット・将来性を考えてみます。フィリピンのメリットには以下のようなものがあります。
- 高い経済成長率
- 人口がそのものが多い
- 人口ボーナス期の終了が東南アジアでは最も遅い
- 英語が得意な国民
- 各地域へのアクセスが良好
高い経済成長率
フィリピンの名目GDPは、2015年から2019年まで平均で7.3%と非常に高い成長率を示しました。
コロナ禍の影響はどうなんですか?
深刻な影響を受けていますね。
フィリピン経済は政情不安定、治安の悪さ、政府の主導力不足などの影響で浮き沈みが激しい時期が続きました。しかし2016 年以降は、ドゥテルテ政権による投資環境の整備や汚職の追放によって、安定した経済成長が期待できる環境が整いつつあります。 実際にフィリピンの名目GDPは、2015年から2019年まで平均で7.3%と非常に高い成長率を示しました。
フィリピンは、新型コロナウィルス感染症で多数の感染者を出しました。2020年末時点での累積感染者は47万4,064人にもなります。フィリピンは感染拡大防止の対策として、2020年3月から継続して移動・経済制限を実施しました。こうした制限措置による経済への悪影響は甚大でした。そのため2020年の経済成長率はマイナス9.5%と統計開始以来過去最低を記録しています(#1)。
人口が多い
フィリピンの人口は1億人余とかなり多いです。
東南アジア全体で約6億人ですから、およそ1/6を占めます。
インドネシアに次いで2番目の多さです。
数は力ですか。。。
しかも、平均年齢が28.8歳と若いんです。
つまり、労働人口が多い訳ですね。
フィリピンの人口は1億900万人あまりです。インドネシア(約2億7千万人)に次いで東南アジアで2番目の人口を誇ります。割合でいえば、東南アジア全体の人口の約17%を占めます。労働人口は経済成長に重要なファクターです。なぜなら新興国では安価な労働力が経済成長の原動力になるからです。
その点、フィリピンは平均年齢も28.8歳と非常に若く、労働人口が非常に多いと言えます。参考までに東南アジア主要国で人口の多い国を挙げておきます。この表からもフィリピンは人口が多くかつ若い国であることが分かります。
国名 | 2020年の人口 (万人) | 平均年齢 |
インドネシア | 27,352 | 32.1 |
フィリピン | 10,958 | 28.8 |
ベトナム | 9,734 | 33.3 |
タイ | 6,980 | 38.2 |
人口ボーナス期がまだまだ続く
フィリピンの人口増加はまだまだ続きます。
労働人口は増加を続けます。
いつまで続きますか?
人口ボーナス期の終了は東南アジアでは一番最後です。
なんと2062年まで人口ボーナス期が続きます。
国名 | 人口ボーナス期 終了年(予測) |
シンガポール | 2028 |
タイ | 2031 |
ベトナム | 2041 |
インドネシア | 2044 |
マレーシア | 2050 |
ミャンマー | 2053 |
フィリピン | 2062 |
フィリピンの人口は最終的に1億5千万人を突破します。
フィリピンの平均年齢が若いということは、人口増加がまだまだ続くことを意味します。フィリピンの人口ボーナス期は2062年まで続くと予測されています(#2)。つまり東南アジアでも最も遅くまで人口ボーナス期が続く国といえます。そして最終的な人口は1億5千万人を超えると予想されます。当面は労働力に恵まれる国である、労働力を原動力とした経済成長が期待されます。つまり製造業などによる経済成長を期待しやすい環境が続きます。
もちろん経済成長には、電力や交通網などのインフラ、許認可に関わる法律・制度などの整備、人材のレベルなども影響するので予測は簡単ではありません。
英語が得意な国民
フィリピンの人々の多くは英語を話すことができます。欧米企業との取引などの面では有利に働きます。実際、英語力を活かしたBPO事業などのサービス業がフィリピンの主要な産業となっています。
BPO事業のなかでも監視カメラ業務やコールセンター業務などでは、英米との時差も有利に働きます。なぜなら英米の勤務時間外をフィリピン(やインド)なら勤務時間でカバーできるからです。
各地域へのアクセスが良好
東南アジア全体におおむね共通することですが、フィリピンは世界の主要地域とのアクセスが良好です。フィリピンはアジアの中心に位置しており戦略的に有利な位置にあるといえます。さらに太平洋と南シナ海という二つの大きな海路に接しており、太平洋側からみれば東南アジアの玄関口となります。
こうした立地を意識して、 フィリピン政府は「ポケットオープンスカイズ政策」や「CCT法」といった政策を実施しています。これによって、海外航空会社にニノイ・アキノ空港以外への無制限の乗り入れ権を認め、国際航空会社がフィリピンを主要ルートに加えることを促進しています(#3)。
また、南シナ海の地政学的リスクが高まった場合を考えてみましょう。想定される代替ルートは、インドネシア・フィリピンを経由します。南シナ海情勢の悪化が、フィリピンにとってはチャンスになる可能性すらあります。
投資対象としてのフィリピンのデメリット
基本情報編で紹介したフィリピンの特徴をもとに、投資対象としてのフィリピンのデメリットを考えてみます。マレーシアのデメリットには以下のようなものがあります。
- 電力不足
- 人材の流出
- おおらかすぎる?国民性
- 政情不安
- 南シナ海情勢
電力不足
フィリピンでは、海上交通網以外のインフラ整備は全体的に遅れています。道路網、鉄道網の整備が遅れていることはもちろんですが、最も深刻なのは電力不足です。そのためフィリピンでは頻繁に停電がおきます。製造業にとって停電は軽視できない問題です。ですから、フィリピンの電力不足は海外からの投資を妨げる要因となっています。
また、フィリピンは電力の多くを化石燃料に依存しています。しかも電力供給への補助金が整備されていません。そのため電気料金が非常に高いです。2015年時点の産業用電気料金はタイやシンガポールと同レベルで、インドネシアの約3.5倍にもなります。
こうした状況を打破するために、 原子力発電所の導入までもが議論されています。 原子力発電所には、環境面で重大な課題があることは間違いありません。しかし原子力発電所があれば経済成長にはプラス効果が期待されます。フィリピン政府の電力政策を注視する必要があるでしょう。
人材の流出
フィリピン人は英語力を活かして、英米とのビジネスを行っています。一方で、英語が得意であるからこそ、国外に出稼ぎにでる人も非常に多いことが知られています。
まして知識階級ともなれば、米国の永住権や市民権を取得するケースもおおいです。実際、わたしの米国留学中には、フィリピン系米国人教授にも出会いました。
それに「フィリピン人の医師が看護師として米国で働く。」というケースも聞いたことがあります。フィリピン国内の医師の給与を、米国の看護師の給与が上回っているから生じる現象です。
フィリピンの経済成長の軸足が製造業にあるうちは、人材流出の影響は少ないと思います。なぜなら、それなりのスキルの労働力が豊富に確保できれば何とかなるからです。
しかし今後、知的財産やイノベーションに重点が移る時期には、人材流出が深刻な問題になるでしょう。高いスキルを持った人材は英語が堪能な可能性が高いです。こうした人材は欧米と奪い合いとなってしまいます。
おおらかすぎる?国民性
フィリピン人の国民性は「おおらか」です。その分、些細な事にはこだわらなかったり、時間にルーズである傾向はあります。ですから労働力として考えた場合には、雇用者側には「きめ細かなマネージメント」が求められます。新興国に進出する企業の目線で考えると、(勤勉な国民性の国と比べれば)どうしても不安材料となりがちです。
政情不安
フィリピンの政情不安は、フィリピンの経済成長をしばしば妨げてきました。 ドゥテルテ政権が成立してからは、治安も改善し、海外からの投資を呼び込みやすい状況が作られています。
しかしドゥテルテ政権の次の政権が安定した政権運営をできるか不透明です。また政権が安定したとして、マルコス政権のような独裁政権ならないという保証は今のところありません。独裁政権だからといって経済成長しないわけではありませんが、その独裁政権が倒れる際には大混乱が予想されます。
ドゥテルテ氏は政界引退を表明していますが、長女のサラ氏が大統領選に出馬するのではないかと噂されています。2022年のフィリピン大統領選挙とその後の政治情勢には十分な注意を払う必要があります。
南シナ海情勢に影響を受けやすい
フィリピンは南シナ海に面しており、南シナ海の領有権問題の当事者です。南シナ海の地政学的リスクに影響を間違いなく受けます。フィリピンは島国であるため、相手国に強大な海軍力・海運力がない限り直接侵攻をうけるリスクは低いです。守りに徹する分には守りやすい国と言えるでしょう。
少なくともベトナムやタイのような大陸部諸国よりは守りやすいです。ですがフィリピンの空軍力・海軍力は極めて弱体であるので、南シナ海情勢で主導権を握ることは難しいでしょう。
一方で、南シナ海の有事では、フィリピン・インドネシアを通る代替ルートが使用されるでしょう。ですから、フィリピンはピンチをチャンスに変える可能性を秘めています。
わたしの考え
世界的にはチャイナリスクを意識したサプライチェーンの再編成が行われています。現在はベトナムがその恩恵を最も受けています。そのためベトナムは2050年まで5.1%/年以上の経済成長をつづけると予想されています(#4)。しかし、南シナ海の地政学的リスクがさらに深刻化した場合、ベトナムはリスクが高すぎることも確かです。なぜなら、南シナ海を経ずに外洋にアクセスできないからです。
そのため、インドネシア、フィリピンといった島嶼国への生産拠点の移転はあり得ます。こうした国は南シナ海有事の代替航路に接しているという点でも有利です。また、インドシナ半島で大国間の代理戦争が生じた場合は、「朝鮮戦争時の日本」のような好景気をフィリピンが享受するかもしれません。
ですから、いつでもベトナムから資金を移動できるように注視する必要があります。移動先は東南アジア域内ならインドネシアやフィリピンが有力だと思います。もちろん、オーストラリア、アフリカ、南米なども候補になります。
この記事の内容は、個人的な見解です。投資はあくまでも自己責任でお願いします。
概要だけで満足された方はお疲れさまでした。
次の記事(フィリピン③ 株式編:準備中)にご期待ください。
興味のある方は本文もどうぞ。
他の国も取り上げていますので興味のある方はどうぞ。
インドネシア 基本情報編
ベトナム 基本情報編
マレーシア 基本情報編
#1 コロナ禍がフィリピン経済に与えた影響と今後の展望(JETRO 地域分析レポート 2021年2月16日)
#2 世界:人口ボーナス期で見る有望市場は(椎野幸平、ジェトロセンサー、2015年3月号)
#3 フィリピンの投資環境と強み (在大阪フィリピン総領事館 商務部 環日本海経済ジャーナル No.94 2015.3)
#4 Market Overview, Vietnam (Country Commercial Guide, International Trade Administration)
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